トラック運送業の賃金規定にともなうリスク
※以下は、令和3年5月「流通ネットワーキング」掲載予定の『トラック運送業の賃金制度〜賃金制度の見直しで、課題解決と事業の発展を〜』のうち、賃金規定タイプ別のリスクを抜粋・要約したものです。
本文には各賃金規定のリスクの詳細や賃金規定の見直しを行う際のポイント、賃金制度を含めた人事制度の構築について記載しました。
気になる方は、ぜひそちらもご覧ください。
運送業の悩み
平成31年4月から「働き方改革関連法」が順次施行され、法的な面からも対策が求められることとなりました。未払賃金の訴訟も増加傾向にあり、リスクのある賃金規程の改定は喫緊の課題です。
本稿では、社会保険労務士の立場から、運送業の賃金制度について、賃金規程の特徴やそれぞれの規定にともなうリスク等について記述します。
労基法型
最低賃金をクリアした基本給です。時間外・深夜・法定休日の労働時間に対する割増賃金を支給します。
日給型
日給を、「出社から退社」とし、賃金=「日給×出勤日数」で計算します。
【リスク】
日給は、1日の所定労働時間に対しての賃金であり、通常は「1日8時間の労働時間に対しての賃金」となります。
したがって、1日8時間、週40時間を超える時間外が発生する場合には、当該時間の割増賃金が必要になります。
諸手当型
従業員の要望や他社の賃金を参考に、諸手当が増えていった規程です。
【リスク】
基本給のみで残業単価を設定している場合、諸手当に対する割増賃金が未払いとなります。
「諸手当を割増賃金として支給」と規定する場合もありますが、判例では否定されることが増えてきました。
その場合、諸手当が残業単価に組み込まれ割増賃金を計算し、支払いをすることになります。
みなし割増型
ある特定の「○○手当」(例「運行手当」)を、割増賃金として支払う規程です。
【リスク】
定額の「手当」を割増賃金として支払い、それが要件を満たしていない場合、その「手当」を割増賃金として支払ったことが認められない可能性があります。
また、「手当」を歩合給的に運賃等で計算する場合は、基本給およびその「手当」に対しての割増賃金の支払いが必要です。
固定残業代型
文字通り、一定の金額を固定残業代として支払う規定です。配車係や管理者等の内勤者に多く見られます。
【リスク】
固定残業代を採用するには、金額あるいは何時間の時間外労働に対する賃金化を明示することが求められています。
その想定した時間数が実態の時間と大きく乖離している場合、その乖離部分が問題となる場合があります。
歩合給型
運賃や業績等の成果で決定される賃金です。
【リスク】
歩合給型でも時間外、休日、深夜労働に対して割増賃金が必要なのは言うまでもありません。
歩合給型の残業単価は、歩合給を総労働時間で割った金額となるため、長時間労働になるほど残業単価が低くなるという特徴があります。
運送業の賃金規程の特徴と課題
自動車運転者の賃金の特徴として、次の点があげられます。
- ①割増賃金を抑えるため、残業単価の基礎となる賃金を低く抑える傾向にある。
- ②職務内容毎の手当や入社時の賃金が、そのまま長期間放置されやすい。
定期昇給の仕組みを持たない会社では、職務内容に変化があっても入社時に決めた手当の見直しが行われないことが多く、毎年10月に改定される最低賃金額に合わせて基本給を見直すのみといった場合もあります。
賃金規程と運用実態にズレが生じている場合は、賃金の未払いが生じていることを意味します。未払賃金の請求訴訟リスクや、従業員の不満がモチベーション低下を招く可能性があります。
なお、令和2年4月1日以降に発生する未払賃金の請求権の時効は、2年から5年(当面は3年)に延長されました。
未払賃金の発生が僅かでもある賃金規程は、すぐにでも改定が必要です。
by office-matsumoto | 2021-04-18